『新・観光立国論』についての議論(1)


 

谷の人モード

発刊から今日でちょうと一ヶ月、Amazonのベストセラー1位になっている 『世界一訪れたい日本のつくりかた(新・観光立国論 実践編)』 を熟読中です。繰り返し何度も読んでいます。

著者は2年前に『新・観光立国論』を書きベストセラーになっています。

■ 著者プロフィール デービッド・アトキンソン

1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学で日本学専攻。アナリストとしてソロモンブラザーズなどで活躍。1992年にゴールドマンサックスに入社。マネーゲームを悲観し2007年に退社。日本で茶道に打ち込む。2011年、国宝・重要文化財の補修を行う小西美術工藝社(創立300年余)の会長兼社長に就任。

『新・観光立国論』で山本七平賞を受賞。2015年11月より安倍首相直に推進している政府機関・「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」の委員を務める。その他「東京の観光振興を考える有識者会議・委員」「国立公園満喫プロジェクト有識者会議・委員」「京都国際観光大使」「二条城特別顧問」「日光市制作専門委員」などを歴任し、本年6月より「日本政府観光局特別顧問」に就任。

 

いつにも増して長文であることを最初にお断りしておきます。

 

アトキンソン氏はアナリストとして世界トップの投資会社で活躍していました。アナリストとは分析家を意味します。彼らが信用するのは人の主観ではなく専ら数字のデータであり、論理を構築する際には必ずデータによるエビデンスを提示します。著書はデータのエビデンスだらけです。

私も理数系なので数字のエビデンスを信用します。人の主観は世間話としてはおもしろいのですが、仕事上では逆に足を引っ張ります。特に事業計画やPL/BSの数字を扱えないと金融機関に信頼されませんし(というか相手にされません)、「ある傾向」が本当かどうかについても数字のエビデンスを追いかけます。それが当然だと私は思っています。創造活動の閃きは非論理的な右脳活動が主体とは思いますが、マッチングが閃くためには数字イメージが根っこにあるとも考えています。

アトキンソン氏の著書は強い説得力をもって私に訴えてきます。

トップレベルのアナリストって凄いなと感じます。

 

同書の内容から日本の未来像が思い浮かんできます。

現在世界の観光産業はGDPの10%を突破し、全雇用の11分の1が観光産業によって生み出されている。世界全体では自動車産業を抜き去り、第三位の基幹産業として台頭してきました(第一位はエネルギー産業、第二位は化学製品産業)。日本では長らく自動車産業や電化製品、精密機械などの産業製品が国際的に高品質だと認められ経済を引っ張ってきたのですが、工業製品のモノづくり大国の栄華が未だに忘れることができないためか、モノづくりの復活を目指そうとする人たちがいます。直截に言いますが、極めて馬鹿げた思考停止だと考えます。

先進国の基幹産業はサービス業に換わったのです。

 

日本の観光産業は長きにわたり日本国民を相手にして十分な利益を上げてきましたが、少子高齢化が進み温泉地の大型ホテルは軒並み倒産か身売り、老朽化した建物をリノベーションする体力はありません。旅館や大型ホテルの本格的なリノベーションには現在相場での新築と同様の投資が必要となります。ではなぜリノベなのか、新築をしないのかというと、土地の手当て、営業開始までの期間に雲泥の差があることなどが理由に挙げられます。

 

ところで、日本の旅館や観光ホテルは、日本国民、特に団体を想定して建てられた建築物ばかりですので、文化慣習の異なる海外からの観光客にとって苦痛を強いられる部分が多々あります。

サービスについてですが、日本の「おもてなし」は全然ダメで、東京五輪招致の際にプレゼンテーターの滝川クリステルがやった、「お・も・て・な・し」は外国人にとってとても不評で、要は「なめてんのか」という怒りを買ったそうです。

まず、人を招くことのホスピタリティについて世界の国々は自国のそれに誇りをもっており、それを自画自賛で自慢することは相当に下品なことというのが一点。

二点目は、「お・も・て・な・し」と一文字ずつ区切って話したこと。これには相手を見下している不遜な態度だと、主に欧米人は感じたそうです。

最後に、日本のホスピタリティはレベルが低く、普段から高いサービスを受けている先進国欧米人にとっては二流もいいところだそうです。

 

話し方については私も知らなかったので勉強になりました。また、自画自賛の自慢は論外で、謙虚であろうとする姿勢は世界共通のようでして、日本人は「おもてなし」を前面に出すことを恥じなければなりません。

ホスピタリティのレベルの低さをアトキンソンは痛烈に指摘します。

「ここは日本なのだから、日本のやり方に従え」(郷に入れば郷に従え)

「日本の文化を味わえ」(日本にはこんなに素晴らしいところがある)

「客はルールやマニュアルどおりに宿泊せよ」(マニュアルにないアドリブのサービスが全くできない)

 

旅慣れていて大きなお金を使う欧米人は、「郷に入れば郷に従え」なんてことは百も承知であり、特にドイツ人はマナー違反を指摘されることに恥じ入り大きなショックを受ける。マナーは自律によってなされるものであり指摘を受けて強要されるものではないという、自立した個人主義の思想なわけです。もし指摘するのでも、相手が恥じ入らないようなコミュニケーション能力が要求される。その能力が日本人は低い。

「マニュアル人間」は日本人の典型ともされているので、抗弁のしようがないのですが、最近、東京都内のオフィスビルや高級マンションにはコンシェルジュサービスが付くようになりました。まだ洗練には程遠いですが、コンシェルジュ的な意識がサービス産業に植えつけられてゆけば、地方の旅館やホテルにもそのお客様個人に合わせた周辺観光企画の提案、お客様の要求にアドリブで対応できる能力を備えたスタッフが増えていくように思います。

日本のサービス業に従事する人のレベルはまだまだ低いのは、例えばホテルのスタッフからレストランのウエイターに至るまで、社会的評価も収入も低いことが大きな要因になっているのではないでしょうか。

日本では客が呼ばないと係の人は来てくれない。海外のウエイターはそれでは駄目で、呼ばれる雰囲気を察して席の隣に立つというのです。これはそのとおりでしょう。

サービスする側から(ホテルでもレストランでも)、「何かお困りのことはありませんか」「何か他にお探しではありませんか」というアプローチをすることは、世界の常識的ホスピタリティなのです。それがなかなか出来ない日本人が「おもてなし」を自画自賛するなど笑わせてくれるというわけです。

 

国民文化的に日本人は、旅館やホテルのやり方に問答無用で従うべきだとか、何かこちらが要求するまで話しかけないでほしいとか、過剰なサービスは監視されているようで嫌だとか、そういうことが常識になっています。日本人同士ならばそのほうが良いし、ホテルのやり方には従うのでできるだけ自由に楽しませてくださいねというほうが、私も気楽です。

ところがインバウンド効果(海外の人たちからの観光収入)を狙った観光産業では、これでは全くダメなわけです。180度価値観を変えていかなくてはならないレベルです。

 

アトキンソン氏が有識者会議の委員として活躍した効果もあったのでしょう、海外からの年間観光客数は前年比21.8%増の2400万人(2016年)に急増、日本政府の2020年までの目標を既に達成し4000万人に情報修正しました。2013年には1000万人強に過ぎなかった訪日観光客数がわずか3年で2.4倍になりました。

データをもとにアトキンソン氏は、日本の観光産業の実力はこんなもんじゃない、世界トップに並ぶ潜在能力があると言っています。2013年の国際観光収入ランキングでは世界26位だった日本は2016年には12位にまで上昇しました。

観光産業の4大要素と言われる観光資源、「自然」「気候」「文化」「食」のすべてが多様的に日本には備わっており、世界の観光競争ランキングの総合評価(World Economic Forum )では、スペイン、フランス、ドイツについで世界第4位になっているのです。

 

近年のメディアにおいて、「国際的に日本人は素晴らしい」と評価されている、日本人のこれこれこんなことの評価が高いというふうな、日本人礼賛記事に溢れています。

これは、礼賛記事を日本人が好んで読み、或いはテレビで見て、自己満足に浸るという何とも下賤な傾向があるために、メディアの収益のために日本礼賛記事が跳梁跋扈しているのです。うかつに信じてはなりません。

我々日本人はまだまだ国民文化的に後進国で劣っているくらいに思っていた方が良い。特に海外からのお客さんを呼び込んで経済の活況につなげるためには、世界各国の国民文化の相違を徹底的に研究し、訪れる一人一人に対し、世界で唯ひとりの「個人」として接してゆくことが求められてくる。

 

アトキンソン氏は「日本には伸びしろ」が大きくあるとして、慰め希望を与えてくれるのですが、そんな言葉には甘えずに、「そうだったのか、なにくそこのやろう」という気概をもって、「ならばこれからすべての個人の多様性に的確に応えられる、名実ともに世界一のホスピタリティだと評価される国にしてやろうじゃないか」と、反骨心パワーがみなぎってくる。個人的な日本人としての矜恃ですが。

高度なホスピタリティを実践できる人になるためには、学歴職歴・資格は関係ありません。誰にでも、万人に、平等にチャンスが与えられており挑戦できることです。知識的に学ぶこともありますが、主としてはアマチュア的人間力の向上であり、人間力が向上すればおのずと人生も豊かになるという一石二鳥です。

 

アトキンソン氏がエビデンスとして掲載している数字のデータを丹念に理解してゆけばゆくほど、観光産業の台頭は世界的な現象として既に始まっていることが解ります。この潮流に乗らないで一体どの流れに乗るんだというレベルの、大きなチャンスだと思います。

日本の将来をみずからの手で明るくしてゆきましょう。