リベラリズム考(2)―啓蒙


 

 

水の人モード

リベラリズム考(1)―多義性 からのつづき。

リベラリズムの思想的淵源は「啓蒙」と「寛容」にあるというのが学者の共通了解ということであった。まずは啓蒙思想について調べ、そのアウトラインをリベラリズムの「イメージ」として映し出していこう。

 

■ 啓蒙思想

[仏] Lumières [独] Aufklärung [英] Enlightenment

いっさいを理性の光に照らして見ることで、旧弊を打破し、公正な社会を作ろうとした、主として18世紀に展開した知的運動。主な舞台はイギリス(スコットランド)、フランス、ドイツであるが、歴史的条件や随伴する政治的事件が相違するため、その相貌は著しく異なる面がある。

 

1.フランス啓蒙思想・・・啓蒙というと、誰しも、モンステスキュー、ルソー、『百科全書』などの作品が相次いで刊行され、「精神の普遍的沸騰」を迎えていた18世紀中頃のフランスの思想を思い浮かべるだろう。(中略)

フランスの啓蒙思想は多彩な展開を見せるが、その共通の特質は理性を中心とする人間の能力に信頼をおく人間主義である。

「人間の知性の光」によって人間を支配してきた迷信と偏見の闇を打ち破ることができるし、打ち破らねばならないというのが彼らの共通の主張であった。彼らが特に関心を寄せたのは宗教的不寛容と恣意的な政治の理性による改革である。(中略)

啓蒙の知識人は人間学に深い関心を寄せたが、その探究にあたって彼らがとった方法は事実の観察と分析である。(中略)

他方で、人間理性への信頼から進歩の思想が出て来る。ルソーのように学問・芸術の進歩を否定的にとらえる思想家もいたが、多くの知識人は歴史の進歩を肯定した。(中略)

啓蒙の知識人たちは革命を望んだわけではなく、彼らの革命の予言はレトリックであった。しかし彼らは旧体制批判の武器を整えるとともに、政治によって人間と社会を合理的な存在に変えることができるという政治と国家に関する新しい表象を作り上げた。この表象こそフランス革命の革命家が共有したものである。

 

2.ドイツ啓蒙思想・・・(前略) ドイツ啓蒙の基本的特徴としては、宗教的・政治的権威に代表されるあらゆる先入観や独断、因習や伝統から解放されて、真偽・善悪の判断基準を普遍的人間理性に置くことがあげられる。(中略)

カントの啓蒙の定義はもっとも明確かつ総括的である。すなわち、啓蒙とは 「自己自身に責めのある未成年状態から脱却すること」、「常に自ら思考するという原則」「先入観からの解放」、「迷信からの解放」 である。

これらの定義は先入観や迷信に代わって、自由と理性を思考や判断の準拠点とする点において、ドイツ啓蒙思想の一般的傾向を集約している。(中略)

ただしカントは、理性批判を経ることにより、理性の限界を確定しており、当時の啓蒙思想推進者とはちがって、理性を単に謳歌してはいない。そのため、彼はドイツ啓蒙思想の克服者でもある。

 

3.スコットランド啓蒙・・・イギリスの啓蒙思想は、広い意味ではベーコンからベンサムにいたるまでの反封建的思想を総称する。ロックは、生得観念を否定することによって理神論の哲学的基礎を提供するとともに、社会契約の考え方にもとづく市民社会論を展開して啓蒙思想に確固たる基礎を与えた。

スコットランド啓蒙思想は、イギリス啓蒙思想の主要な流れの一つを示すもので、18世紀初頭からほぼ一世紀にわたってエディンバラ、グラスゴーとその周辺の知識人たちによって展開された思想活動のことで、スコットランドだけでなくイギリスの産業と文化の振興に寄与した。(中略)

ハチスンは、シャフツベリから継承した道徳感覚説(モラル・センス)を理論的に精密化して道徳哲学(モラル・フィロソフィ)を体系的に展開し「富と徳性」の問題を解決しようとした。

ヒュームは、人間本性の諸原理を究明するとともに奢侈(※しゃし・・度を過ぎてぜいたくなこと、身分不相応に金を費やすこと)と農工商の分化をとおして展開される近代的生産力を分析し、新しい市民社会の倫理と論理を解明しようとした。

スミスは、利己心と共感の原理の関係を明らかにし、各人の利己心にもとづく自由な経済活動が社会全体の富裕を実現する過程を解明して、「富と徳性」の問題を解決しようとした。

(『岩波哲学思想事典』p423-425)

 

※文中の太字の強調は私の手によるものです。

 

ひとつ注意しておきたいことは、「啓蒙」の日本語的意味は、「知」を教え広めるという表層的意味に使われることが多い。西洋思想での啓蒙思想とは、根本原理を考察する哲学が基底にある。基本的語義が異なっていることは見てのとおりだ。また、「理性」や「自由」という言葉も和製漢語であるので、「漢字的意味」はできるだけ除外し西洋で使われた語義を想像しつつ、文脈のなかでこうした語を解釈していくことが求められる。

特に「理性 [独] Vernunft」は重要キーワードであり、上記同事典でも詳細な思想的解説がある。

 

リベラリズムの淵源として第一に挙げられる啓蒙思想には、「自由」のエッセンスが濃厚に詰まっている。

西洋近代が、キリスト教のドグマ(教条主義)から解放されようともがいた様子がうかがえる。

リベラリズムは理想を追い求めているように思われることがあるけれど間違いで、徹底した実存主義、事実の観察と分析のリアリズム(現実主義)を根本とする。

先入観からの解放、神の教説やあらゆる宗教の教説および国の教育を鵜呑みにせず自力で思考すること、人間の理性の「可能性」を信じ切ること、ひいては個人が自分の可能性を信じ切ること、生得性の否定とは人間ひとりびとりが生まれた瞬間には平等であるということ。

現代的価値の多くが「啓蒙思想」にある。

すなわち啓蒙思想は、それ以前の世界観から大きくドラスティックに、そしてまさにリベラル的なダイナミズムによって、世界の価値観や文化、産業、政治を変貌させる原動力となった。

現代でも未だ解決できていない「富と徳性」の問題についての哲学的考察(理性による解決)を、西洋は18世紀から始めていた。その頃の日本は江戸時代中期。

 

次の記事では「寛容」を取り上げる。

 

リベラリズム考(3)―寛容 へつづく。