風は見えない。
風は聞こえない。
木々の葉が揺れるのを見て、風が吹いていることを認識する。
ヒューヒューという音を聞いて、風が吹いていることを認識する。
風の音は、風が向う先の障害物の形状によって生み出される。
人間の耳自体を笛の効果として、風の音を聞くこともある。
風によって生み出される、大自然が奏でる音源とその仕組みを 『天籟』 という。
大自然は人間の中にも凝縮されている。
人間自体にも 『天籟』 がある。
人の心というのは空洞の楽器のようなもの。
外から入ってくる風と内なる風によって、楽器が音を鳴らす。
外から入ってくる、五感や感性、知性で認識できる情報。
内から発生する、思いついたこと、気掛かりなこと、思考や内省。
それらが風の役目となり、空洞の楽器としての心を通じて音を奏でる。
人間の心は 『天籟』 の音源になる。
心という楽器の形状は千差万別、一つとして同じものはない。
72億人の人間たちには、72億種類の楽器がある。
綺麗な和音を奏でる楽器、不協和音や濁音を奏でる楽器などさまざまだ。
ある時はメジャーコードを、ある時はマイナーコードを、或いはセブンスコードを奏でる。
楽器が奏でたメロディは感情を揺さぶる。
喜び、楽しさ、怒り、哀しみ、笑い、憎しみなどいろいろあるだろう。
『天籟』 によって二次的に生み出された感情は、全身に反応として表れる。
顔の表情、顔色、声質、しぐさや動作、言語などを通して外部に表される。
外部に表された感情は、他人へ大きな影響を与える。
良い影響を与える場合もあれば逆もある。
自分にとっても他人にとっても良質なメロディを奏でたい。
それが幸せへの道になる。
心という空洞の楽器をどう創るかで、人生は大きく変わる。
生きるということは、この楽器を創り続けることだ。
いつでも良質の和音ばかりを奏でる楽器が良いわけではない。
単独の音の良さは慣れることによって機械的でつまらなくなる。
軽い不協和音のセブンスコードや強い不協和音のディミニッシュコードも時には必要。
それでこそ波のある連続したメロディとなり世界観を創る、それが豊かな人格形成。
大自然の 『天籟』 だって凪いだ風もあれば怒り狂う強風や突風もある。
苦しみ悩み悲鳴を上げることもたまには必要、たまには。
他人の心も楽器。
貴方が他人の心の楽器に風を送りこみ、知らず知らずのうちにメロディを創っている。
他人から出るメロディが貴方にも、また違う他人へも影響を与える。
そうして多くの楽器が一体となってオーケストラを奏でた時、一陣の風となる。
貴方はオーケストラでどのようなパーツを演奏しているのだろう。
どのような楽器を用い、どのような情感をかもし出しているのだろう。
『天籟』 を奏でるための楽器は自分で創る。
『天籟』 を奏でるための風は自分で選ぶことができる。
他人や社会の 『天籟』 を奏でているうちの一つは貴方の 『天籟』 の風。
今も、ずっと先に生きる子どもたちにも、『天籟』 のことを伝えてくださいませんか。