帰属意識(3)愛と協働


 

ある集団への帰属意識は多様な形で愛情を生みだす。

前の記事では所属する集団の分類と価値について考えました。さまざまな集団が所有する価値に対して私たちは欲求を覚えます。価値に対する欲求をかなえて所属することで、その後に生じる帰属意識の愛と協働行為の素晴らしさと、注意しておくべきデメリットについて考えてみたいと思います。

 


 

■ 帰属意識による愛

 

1.自己アイデンティティの強化

帰属先は自己アイデンティティの一部になりえる。愛国心や愛社精神、民族愛、宗教愛、あらゆる集団の一員としての帰属意識が高まれば高まるほど、その所属先への愛情は強く深くなる。所属集団への愛は間接的に自己を愛する行為となるが、これは正常な感情であり、基本的にはポジティブに考えるべき心理。

2.連帯意識による互助愛

互いに助け合おうとする土壌が自然にできる。人には愛されたいという受動的欲求だけでなく、愛したいという能動的欲求もあり、協働することで自然に仲間への愛情を培える。生涯を通じた財産としての交友関係や恋愛関係が生まれることが多々ある。

3.ブランド的価値の共有

国や所属する会社、信仰する宗教などのブランド的価値が高まれば高まるほど、自分の価値も高まる。(というふうに無自覚に感じる。快の感情が生まれる。)自分の所属体に競争相手がいれば対抗意識が強くなり帰属愛は深まる。所属体の一員としての矜恃が己れの姿勢を正す。

4.希望を共有し生き甲斐とする帰属愛

所属体の目的や目標を自分自身の価値観へ同化し希望の価値へと昇華させることができる。大きな志に情熱を燃やし皆でやり遂げようと団結する。苦楽をともにし、目的を達成すれば独力のそれよりも大きな達成感を得られる。多くの場合、所属体と自分との目的一致(価値観一致)の帰属愛は、自己の生き甲斐・働き甲斐に通じる。

 


 

以上、ざっと良い面だけにスポットを当てて書いてみましたが、他にもあるかもしれません。
そしてもちろん、所属することによるデメリットもあるので同時に押さえておかねばならない。

 


 

■ 所属によるデメリット

 

1.帰属意識をもてない所属

利害関係での繋がりが強い場合、互いの利益のために利用し合うだけの関係になりやすい。組織としても個人としても所属による価値は半減する。

2.帰属意識を利用されてしまう所属

政治家が敵対勢力を敢えて作り内部求心力に代えて利用するように、帰属意識やナショナリズムは利用されることが往々にしてある。帰属意識と忠誠心については次の記事でとりあげる。

3.奢りと空疎

自己のアイデンティティを帰属体へ投影させたときに起きる弊害。
依存度が高まると人格が空疎になる、所属体の価値観、理論、思想、教義など借りものの知識によってモノの価値や自分を表現することが多くなる。虎の威を借る狐。張り子の虎。威光を笠に着て特権意識を持つようにもなる。帰属体の後ろ盾がなければただの一個人であるのに修養を怠り、奢り高ぶり、自己評価が高いように勘違いをする。

4.所属体の価値の下落

所属先のブランド的価値や経済的価値が下がったとき、アイデンティティへのモチベーションも下がることが多い。所属体が批判されれば落胆し、怒り、無力感に晒され、やがて帰属意識などどうでもよくなる。自分個人の生活や金銭のため打算的に帰属を続けるか、その所属体から抜けるかという選択になってしまう。

5.連帯感の閉塞感と退化

連帯を強化しようとすれば全体主義に繋がりやすく、表現の自由や行動の自由が制限され大きなストレスとなる。得てして組織内では団結の名のもとに秩序至上主義に陥る人が増え、彼らの意見は強い求心力を発揮するのでたちが悪い。価値観の画一化は、組織も個人も退化へと繋がる。

6.人間関係のストレス

逆に連帯感が弱まり組織の自由度が高くなれば、自由に振舞う人たちによって横の人間関係に軋轢が生じやすく、ストレスは大きくなる。また、絆の裏返しはしがらみとなる。

 


 

所属することで生じる幻滅やストレスは多々あります。組織の価値観が期待外れだったり変容してしまったり、大きなストレスを感じる人が所属体に存在していることなどのデメリットや、所属体のうまく機能しなくなって解散・倒産してしまうリスクもある。

昨今は個人主義で「会社に雇われるのは収入を得るためだけ」というドライな労働的価値観も世間には散見されますが、帰属意識が希薄なのであれば個人として自立し生き甲斐となる仕事をすべきであって、いくら営利目的でも組織体に所属する意味は半減します。

 

しかしデメリットやリスクについて理解を深め、注意を怠らず、一員として所属体の軌道修正にもポジティブに参加してゆくことで、所属による大きなメリットを享受することができる。

いま所属している限りは、これから所属する限りは、帰属意識による所属体への愛を強くもって活動することのほうが、組織にとっても自分にとっても、お互いに良い関係となるのは自明です。日本という国家に帰属していることについても同様で、わが国を良くしていきたい、良くすることに自分が何らかの貢献をしたいという愛国心が有った方が、それが無いよりも、充実した人生をおくれると思います。会社にお勤めの方も然りで、何か趣味やスポーツのチームに所属するというのも同様です。

共通の目標を定め、ともに力を合わせて活動をする、オーケストラのように作品を奏でる、目的の価値を創造してゆくという、「協働行為(コラボレーション)」は素晴らしい価値を内蔵している。

 

次の記事では、帰属意識と忠誠心の美学をテーマにし、歴史的意義、欲求への心理、是非について考えてみたいと思います。

 

 

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