『新・観光立国論』についての議論(5)


 

谷の人モード

『世界一訪れたい日本のつくりかた(新・観光立国論 実践編)』

引き続きデービッド・アトキンソン氏が提言する「新・観光立国論」について書いてまいります。

 

ここまでいろいろ見てきて、最も痛切に感じるのは、日本人主観による常識的な観光イメージでは駄目だということです。世界には全く違った習俗・常識に馴染んだ人たちだらけですし、そもそも日本人文化というのは独特なマイノリディであるために、それを外国人観光客に押しつけても(「これが日本の常識なのです」と大上段から紹介しても)、それを目当てに日本に来る人はいないということです。ぐだぐだと日本のPRをしても、「自分たちの文化を広めたい、理解してもらいたいなんて、海外の人からすれば余計なお世話ですよ」(デービッド・アトキンソン著 『日本再生は生産性向上しかない』 p44 )ということです。

つまるところ、観光立国を目指すのならば日本の魅力をもっと高めることをまずはやらねばなりません。では、何を高めたらいいのかということになる。

 

日本の一般国民の国内旅行の常識は、旅館に一泊二日ですね。二泊三日のこともあるかと思いますが、一週間同じ旅館やホテルに宿泊して観光するというのはなかなかないと思います。

「温泉につかってゆっくりする」「おいしいものを食べる」「景勝地を見学しにいく」「テーマパークで遊ぶ」「スキーや海水浴をする」などが目的化されると思いますが、日本人の場合は短期宿泊であるために、たくさんの目的を必要とせず飽きることもありません。

ところが海外から来日する観光客は、例えば欧州から十数時間のフライトで旅費に数十万円かけて来ます。アトキンソン氏の引用データによれば、アジアからの観光客の滞在平均は5.2日、欧州からは11.6日、アメリカからは9.5日、オーストラリアからは12.7日です。日本人のように、あれ見たいこれ見たいで日本各地を忙しく回るのは中国人や韓国人などアジアのツアー客がほとんどです。

欧米や豪州からのゲストは平均支出額も多い。(アジアの1.3倍~2.1倍) 中国人ツアーの爆買いを含めてこの結果です。

長く滞在してくれる欧米や豪州のゲストを飽きさせないように、同じホテルに十泊しても毎日が変化に富んでいることが求められます。「観光の目的」を日本人のように狭い範囲で絞ってはだめだということです。

 

欧米やタイ、シンガポールなどの観光先進国では、データサイエンスの力で顧客満足度を数値化しており、「何を目的にしているか」という意識調査をエビデンスとして観光業企画を立案しています。日本は30年ほど遅れているようです。しかし、ならば追いついて追い越せばいいのです。

以下は、アトキンソン氏が調べてきたブルームコンサルティングという会社の、「何を目的にしているか」の項目です。

目的の多様性に驚きます。

 

■ Culture

 History(歴史), Local gastronomy(食), Local people(人), Local traditions(伝統)

 

■ General

 Destination(目的地), Holiday(休日), Tourism(観光), Tourism atttractions(観光資源)

 

■ Specific Activities

 Adventure(アドベンチャー), Animal watching(動物鑑賞), Beaches(ビーチ), Boating(ボート), Business(ビジネス), Couples(カップル), Cruses(クルーズ), Diving(ダイビング), Entertainment parks(テーマパーク), Family(家族), Fishing(釣り), Gambling(ギャンブル), Gastro activities(ガストロ), Golf(ゴルフ), Hiking(ハイキング), Historical sites(史跡), Hunting(狩り), Language courses(語学), LGBT, Luxury tourism(ラグジュアリー観光),  Medical tourism(医療観光), Museums(美術館・博物館), Natural wonders(自然・景勝地), Nightlife(ナイトライフ), Performing arts(演劇など), Religious sites & pilgrimage(宗教施設), Senior(シニア), Shopping(ショッピング), Special events(イベント), Surfing(サーフィン), Sustainable and rural(エコ・故郷), Traditional markets(伝統的な市場), UNESCO(ユネスコ), Water Sports(ウォータースポーツ), Well being(ウェルネス), Winter sports(ウィンタースポーツ), Youth and backpackers(若い人、バックパッカー)

(デービッド・アトキンソン著 『世界一訪れたい日本のつくりかた』 p288 )

 

そしてアトキンソン氏は次のように述べています。

 

「多様な観光資源を発信する必要がある」

「このリストに対応できる観光資源が多くなればなるほど、観光大国となっていきます。」

「日本全体を見わたすと、JRと自治体が組んで、自治体ごとの魅力を発信する“文化を中心としたディスティネーションキャンペーン”が多いですが、他に発信されているのはこのリストのごく一部にすぎません」

「文化観光と自然観光を組み合わせたコンテンツが求められていると思います。」

「日本は、このリストに載っている言葉のほとんどに対応する観光資源があります。」

(同書 p289-290 )

 

観光支出の多い欧米や豪州の目の肥えた上客の場合、一つのホテルを拠点として10日間飽きずに楽しめる観光地が今の日本にどれくらいあるのでしょう。北海道のニセコは町全体がスキーを中心とした統合リゾート化に成功しています。しかし、一泊10万円を超えるホテルが4軒しかなく、アトキンソン氏によればまだまだ高級ホテルが足りないとのこと。(地域一番の全506室を誇るヒルトンは一泊5万円以下で大衆ホテルの位置づけです)

日本人にも超富裕層はいますが、世界からみると割合が少ないようです。

なんだか、「お金にモノを言わせて」だとか「お金をひけらかせて」ということが嫌だなあと思うのは、私が日本人だからで、超富裕層ではないからでしょうね(苦笑) その立場になってみなければ解らない感情もあるのだと思います。

 

ここは少子高齢化で経済ピンチの絶壁に立つ日本の将来を考えて、「経済」だと割り切って、超富裕層にたくさんお金を落としてもらえる日本をつくるということで納得しましょう。

地方創生でインバウンドを狙うためには、特に、食の多様性(魚あり肉あり野菜ありで毎日飽きないように良いお店がたくさんあること)、ナイトライフ(夜のエンターテインメント)、宿泊施設のリノベーション(家族や知人と泊まる場合には、日本のように大きな部屋に一緒に寝る習慣はなく、それぞれ個別の寝室が必要)などが課題になると思います。

 

以上はアトキンソン氏による、「海外の観光産業と比較して日本が劣っている点を調整しよう」という指摘に基づいたものです。

まずは並び立てるように、そして上記の「多様な目的」に、新しい何かのアイデアを幾つか吹き込みたいですね。日本でしか目的とならないもの、を考え出したいものです。

 

 

 

 

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