『日本』という個性(4)


 

桜の人モード

先月より、『日本』という個性シリーズを書いています。

前回の記事では『葉隠』の武士道について触れました。武士の生きざまは死にざまであり、そこに数百年以上も続いてきた「日本男児」のロールモデルを見ることができます。

前々回の記事では「慕う」という感情と、「秘すれば花なり」について触れました。いずれもおくゆかしく一歩後ろに引いた日本人の内面文化です。

こうして考えてゆくにつれ、『日本』という個性とは、『日本』という美学だと言えるのではないかと思うに至りました。そこには確かに、「美」という感性を感受しかつ表現しようとするさまがうかがえるのです。

この「美しさ」というモノサシは個人差がとても大きいのではないかと思います。

風景や絵、写真を見て、あるいは音楽を聴いて、「美しく」感じられる感性が鈍ければ「意味」を優先的に求め、、おそらくそこでは言葉の理屈が主体となるのでしょう。

 

もちろん理屈も大切ですし、理屈を軽んじるということではありません。

 

芸術的な「美しさ」に敏感で、みずからも着る服のお洒落を楽しむような人は、人の心の「美しさ」をごく自然にとらえていると思うのです。

そこでの「美しさ」は、対象となる人に「生きかたの美学」が確立されているかどうかを、思考ではなく直観として洞察しているのではないか。そんなふうに私は感じます。

 

美しくないからと言って醜いわけでも卑しいわけでもありません。生きかた的な美学での美しさの反対は、「美しくない」に集約されると思います。単に美しくないがほとんどでしょうけれども、穢れている、卑しい、醜い、煩雑、何となく不快、濁っていると感じることがあると思います。

 

欧米人やアジアを含めた海外の人たちに、生きかたの美学があるかどうかは知りません。ただひとつ言えることは、日本の歴史をさかのぼれば、日本独特の美学がそこかしこに在ったことが確認できるのです。

現代日本は欧米化の波にさらされ、『日本』という個性=美学を失いつつあるのではないでしょうか。言語に始まり、身のこなしかた、色彩、音楽、食事、他人との接し方、大自然との関係、価値観、心もち、信条など挙げればきりがありませんが、「欧米文化のほうが先進的で優れている」という盲信、明治の文明開化から始まった「日本の非個性化」が今も進んでいるような気がしてなりません。

欧米の文化や思想、哲学、価値観のほうが日本のそれよりも優れている(または劣っている)という相対化は、無意味だと私は思うようになりました。なぜならば、人には長所と短所が同じ部分にあって、それをおそらく我々は個性と呼び、短所を削れば長所も削られる、そうなると人間の画一化が始まるわけです。同様に、日本文化の長所と短所も同じ部分にあるのではないでしょうか。もし、日本のほうが劣っていると思う短所を削り欧米的価値観に塗り替えるのならば、それは、さて、どういうことになりましょうか。

 

前々回の(2)で触れました、

秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず

は、世阿弥の『風姿花伝』にある言葉です。(※「秘せずば」と「秘せずは」の二つの原文出典があり、私は「秘せずば」のほうを使っています。語呂的にも意味的にもこちらのほうがしっくりきますので。)

『風姿花伝』は世阿弥自身も観阿弥から教わった伝承的な文献です。

他方、『花鏡』という文献があって、「初心忘るべからず」や「目を前に見て、心を後ろに置け(我見と離見」などなど、生きかたの極意にもつながることが書かれています。こちらは伝承ではなく、世阿弥が中年から晩年にかけて著したもので、世阿弥オリジナルです。

 

その『花鏡』から。

 

幽玄之入境事(ゆうげんのさかいにいること)

幽玄の風体のこと。諸道・諸事において、幽玄を以って上果とせり。

ことさら、幽玄の風体、第一とせり。

・・・・・・

 

まだ続くのですが、次のテーマは「幽玄の美」を考えてみたいと思います。

なかなか奥深いテーマですが、「幽玄とはなにか」という定義について研究するのではありません。「幽玄」という観念が中国から日本に輸入されたのはおそらく上代(飛鳥ー奈良時代)かと思われますが、そこから約1200年ものあいだ、日本の先人先賢の人たちがどのように「幽玄の美」を捉えてきたのかを考え、大自然の幽玄だけでなく、人としての幽玄の美、あるいは心の幽玄の美、人生の美学としての幽玄といった視点で気づきを得たいと思っています。

実を言えば今日の記事のテーマは「幽玄」にしようと考え、アイキャッチ画像だけはその雰囲気となるものを準備し掲載したのですが、「美しさ」や「美学」について徒然に書き綴ってしまいました。何のために『日本』という個性を考え書いているのかを、私自身が自分に対してはっきりさせたかったのだと、今、思いました。

 


 

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