『愛するということ』―1


世界的にロングセラーとなっているエーリッヒ・フロム著『愛するということ』を数年間にわたって何度か読み返してきましたが、今回は「愛する」よりも「技術」に焦点をあてて考えています。

原著のタイトルは『THE ART OF LOVING』で、直訳すれば「愛することの技術」です。「技術」を表す英単語は他に [technique] [skill] があり狭義では [technology] も入りそうです。本書タイトルで著者は [art] を用いています。

[skill] に関していえば、個人に内在する技能そのものを表し、主に仕事上でのことに使用されるので適切ではないのかもしれません。では [technique] と [art] はどこが違うのか。テクニックは方法や手順であり、主に身体性や知性を用いる際に使うのかなと幾つかの辞典を調べていて思いました。[art] は感性や心を使って何かを産みだす技能という語感かなと。あくまで個人的な語感印象ですが。
ちなみに参考にした辞典は、大修館書店『ジーニアス英和大辞典』、小学館『ランダムハウス英和大辞典 第2版』、研究社『新英和大辞典 第6版』、研究社『英語語源大辞典』です。

本文内容には、[technique] や [skill] と表現してもよい意味内容で技術という言葉が使われている箇所が幾つもあります。原文でどうなっているかわかりませんが。

本論考では、それら英語的意味の区別は枝葉の部分だと思うので横に措き、すべての「技術」の語義を日本語的に分解して捉え、愛する根幹の技術を考えてみたいと思います。

 

まず、本書第2章「愛の理論」p48 から引用します。

愛の能動的性質を示しているのは、与えるという要素だけではない。あらゆる形の愛に共通して、かならずいくつかの基本的な要素が見られるという事実にも、愛の能動的性質があらわれている。その要素とは、配慮、責任、尊重、知である。(紀伊国屋書店 鈴木晶訳 エーリッヒ・フロム著『愛するということ』1991年新訳版)

要素の指摘は重要部分です。愛することの技術はこの4点だと言っているに等しいからです。理論的には、この4要素レベルの高低で愛する技術の優劣が定まるとフロムは考えたのだと私は解釈しました。

配慮とは、子どもに対する母の愛のように、愛する者の生命と成長を積極的に気にかけることであり、愛の本質はそのために働くことであり育てることであると述べています。

責任とは、愛する者から求められた時に私が応じることであり、応じる用意が事前にあるという意味で、身体的または精神的に相手から求められればそれに応じることだと述べています。

尊重とは、相手が唯一無二の存在であることを知る能力であり、私のためや私の仕方ではなく、その人なりの仕方で成長することを望むことで、それには私の独立性が必要であると述べています。

知とは、気遣いすることを動機として相手をよく知ることであり、現象としての状態を洞察し知ることでもあり、更に掘り下げ相手と融合して知るというレトリックまで使っています。

最後の知にはより多くのページが割かれているので、精神分析学に携わったフロムが最も言及したかった部分のように感じました。

4要素の一連の文脈は、配慮には責任が必要であり、責任には尊重が必要であり、尊重には知が必要であると。これを順に戻すと、まず知ることで尊重する準備が整い、尊重することで責任を負う準備が整い、責任を感じることで配慮することができるという、知から始まり配慮が行われるというロジックだと解釈しました。

以上は本書内容の重点部分にかんする私の解釈であり、私の意見・考察ではありません。

次の稿では、フロムの理論を参考にしながら私の論考を書いていきます。

 

 

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