地球上の〈ぼく〉と星の王子さまは、飲み水を切らし砂漠の中の井戸を求めて歩き続ける。日が暮れて夜になってしまう。
「星たちは美しいね、見えない一輪の花のおかげで・・・」
「もちろん」とぼくは答えた。そして話すのを止めて、月光の下の砂の皺(しわ)を眺めた。
「砂漠は美しいね・・・」と王子さまはつけ加えた。
まさしくそれは本当だった。ぼくはずっと砂漠が好きだった。砂山の上に腰をおろす。何も見えない。何も聞こえない。それなのに、何かが、黙って光っている・・・
「砂漠を美しているもの、それは砂漠がどこかに井戸を隠しているということだよ・・・」と王子さまが言った。
ぼくは、砂の放つあの神秘的な光の意味がふいにわかったので、びっくりした。小さいころ、ぼくは古い家に住んでいた。そして、言い伝えによると、ある宝物がその家に埋まっているということだった。もちろん、誰もそれを見つけることができなかったし、たぶんそれを探そうともしなかった。しかし、その宝物が家全体に魔法をかけていた。ぼくの家は、その核心部の奥に一つの秘密を隠していた・・・
「そうなんだ。家でも星でも砂漠でも、その美しさを成り立たせているものは、見えないのさ!」とぼくは王子さまに言った。
「きみがぼくの狐と考え方が一致しているので、ぼくは嬉しいよ」と彼は言った。
(第三書房 対訳フランス語で読もう『星の王子さま』 )
王子さまの星の一輪の薔薇の花は、地球上の薔薇農園にあった五千本の薔薇と見た目は同じなのに王子さまにとっては価値が全く異なっていた。狐が「大切なものは目に見えない。本質は目に見えない。」と王子さまに教えてくれた。
夜空の星々のなかに王子さまの星があるけれどどれかはわからない。その星に咲く一輪の薔薇への思い入れが、夜空に輝く星々を、宝石を散りばめたような美しい価値に高める。
砂漠も同じで、どこかに井戸を隠しているという想像力をはたらかせなければ単なる不毛の地だ。彼ら二人はこの砂漠のどこかにきっと井戸があると信じたのだった。
誰かにとって全く価値のないものが、他の誰かにとってはものすごく価値の高いものになるという体験を私たちは日常的に感覚できてはいるのものの、それは言葉や論理によって説明できるものでも解明できるものでもない。
ここで何をどう捉えたら良いのだろう。
第一段階として、愛着や思い入れのあるモノや他者との関係作りがある。
第二段階として、そこから離れた時や見えない時の想像や洞察がある。
第三段階として、想像によっておのずと生まれる心情の創造がある。
第一段階の関係性の構築がなければ何も始まらない。
第二段階の想像力、或いは空想力、洞察力が弱ければ第三段階の価値は高まらない。
最も個人差が大きく難解なのは第三段階の心情の創造だ。
この己れの心情の創造は意識して行っているものではないし、経験によるものとも言い切れない。現に星の王子さまのピュアな心情は経験によって得られたものではなさそうで、大人になるにしたがって消えてゆくようにも思える。いったいこの創造の正体とはなんだろう。
わからない。
今後の課題としたい。
『星の王子さま』での大きなテーマとして今回は Creativity を考えてみました。関係性の創造、想像の創造、心情の創造、いずれも私たちは無意識のうちに行っていることだと思います。